クリニック経営の教科書 6.かかりつけのクリニックに
選ばれるために

「かかりつけ」とは、患者がその科目にかかる病気や症状になったときに、「そのクリニックに行こう」と想起されるクリニックのことです。定期的に通院するクリニックとして「選ばれる」ためには、クリニックの医師に対する「信頼」が欠かせません。

なぜ、「かかりつけ」に選ばれないのか?

かかりつけのクリニックに選ばれるために

「かかりつけ」に選ばれるには、患者さまと医師との間に信頼関係を築くことが何よりも大切です。

初診、再診時には、事務や看護師の接遇が重要だと説明してきました。けれどもクリニックが「かかりつけ」として選ばれるためには、それらの接遇に加えて、クリニックに対する信頼を寄せていただかなければなりません。クリニックへの信頼とは、その患者さまが、「医師の診療そのものに納得すること」によって初めて生まれるのです。

特定疾患がある患者さまのほとんどは、すでにかかりつけのクリニックを持っていますので、かかりつけのクリニックがない状況で新たに病気が見つかった場合や、引っ越しをして物理的な理由でそれまでのクリニックに行けなくなった場合以外は、それまで行っていたクリニックから自分のクリニックに、患者さまの意思で乗り換えていただかなければなりません。

人間は、本能的に一度習慣化した行動を変えるのを嫌がるものです。決まった場所で同じことをするのに比べ、別の行動を取るのはストレスを感じます。さらに通院というのは、新しいレストランを開拓するなどの行為と違いポジティブに捉えられにくいので、積極的に通院先を変えようという発想になりにくいものです。

けれども、逆に言うと一度「かかりつけ」になった患者さまは離れにくいということです。ですから、「初診」で訪れて「また来よう」と思っていただけるような、患者さまにとってのメリットを提供することが大切であり、それこそが患者さまと医師との信頼構築に繋がるのです。

このように考えると、「かかりつけ」患者さまとは、初診から数回の再診を経て、来院を繰り返す中でそのクリニックの医師を信頼してくださったわけで、非常に大切であることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

ライフタイムバリュー
(顧客生涯価値)を考える

ライフタイムバリュー(Lifetime Value)というビジネス用語は、長期的に一人の顧客から得られる価値を指標化したもののことで、「顧客生涯価値」とも呼ばれています。

ビジネスの世界では、「顧客の満足度を継続的に高めることで商品のリピート購入が期待でき、繰り返し購入されることで企業が継続的に発展していく」と考えます。だから、一度買って終わりではなく、その商品を繰り返し長く買い続ける質の高い顧客(=ライフタイムバリューの高い顧客)を確保していくことが重要なのです。

クリニックを経営する上でも、このライフタイムバリュー(顧客生涯価値)の視点を取り入れることができます。計算式で表すと、ライフタイムバリュー=1回受診当たりの診療報酬×来院頻度×継続来院期間になります。

たとえば、かかりつけ患者になってくださると、
・ 患者の1回受診当たりの診療報酬=5000円
・ 来院頻度 年12回(月1回)
継続来院期間3年間としますと、ライフタイムバリューは、18万円となります。

逆に、かかりつけ患者になってもらえないと、
・ 患者さまの1回受診当たりの診療報酬=5000円
・ 来院頻度年間1回のみ
継続来院期間なしなら、ライフタイムバリューは、5000円となります。

「かかりつけ」の患者さまとは、クリニックのファンであり、ビジネスで言うところの、「ライフタイムバリューの高い顧客」です。

年間診療報酬の観点からも考えてみましょう
年間診療報酬=①新規患者数×②診療報酬平均単価×③年間来院頻度となります。

では年間診療報酬を上げるにはどうしたらよいかというと、たとえば、

(1) 上位表示されるホームページを制作し、ガイドラインに沿った検索連動型広告を出して、新規患者を増やす

(2) 必要な指導や検査を適宜行い、診療報酬の平均単価を適切にする

(3) 信頼関係を築き、「かかりつけ」に選ばれて、年間来院頻度を維持する

の3つを状況に応じて行うのが最良の策と言えるのです。

仮に、年間診療報酬を2倍にしたいとしても、急に新規患者さまを2倍に増やすのは無理がありますし、保険診療を行う限り、患者さま1人当たりの単価には限界があります。ですから、上記3つの要素を分解して長期的な視点で考えていきます。

計算上、新規患者数を1・3倍に増やし、診療報酬平均単価を1・3倍にして、年間来院頻度も1・3倍に増やせば、年間診療報酬は約2倍になります。ですから、3つの要素を3割ずつ増やしていけば、2倍も無理な話ではありません。

わかりやすく説明するには

わかりやすく説明するには

原因や治療法を分かりやすく説明するためには、それぞれの病気別に、ある程度話す内容を決めておきましょう(マニュアル化)。

症状を説明するときは、「小冊子」や「症状を解説した用紙」を用い、該当ページを示しながら説明するようにします。医師が話す聴覚的情報を文字、写真・図などの視覚情報で補うことによって、患者さまにとってより分かりやすく記憶に残りやすい説明が可能になるからです。

たとえば、糖尿病について説明するときは、「糖尿病というのは、インシュリンを体に取り込む力が弱くなることによって……」というマニュアル化された説明を、小冊子を用いて、ブドウ糖が細胞の中に運ばれずに血液の中に溢れてしまっているイラストを指し示しながら話します。

そして、患者さまの反応を見て、もっと詳しい説明が必要そうならば、より詳しく説明しますし、いまいち腑に落ちていない様子ならば、「要するに、慢性的に高血糖になるのが糖尿病です」「血糖値が高い状態が続いてしまう病気です」などと、より平易に言い換えます。同様に、高血圧について説明する場合は、同じく小冊子を活用しながら「塩分を多く取りすぎるなどの原因によって血圧が高いことで、このまま放っておくと動脈硬化が進みやすくなる病気です」などというように、なるべく平易に説明をしましょう。

医師しか知らないような専門用語は使うべきではありませんし、患者さまの理解度に合わせて話をします。そして、説明に用いた小冊子は、患者に差し上げ持ち帰っていただきます。

診療時間のメリハリをどうつけるか

医師は限られた時間の中で、多くの患者さまの診療に当たるため、診察にかける時間にはメリハリをつけなければなりません。その際、時間をかけるべき患者の優先順位は次のようになります。

● 初診の患者

● 再診・かかりつけの患者

初診の患者さまの場合、私は患者さまによっては開放型質問で症状を聞くことに5分以上時間をかけることもあります。その一方で、再診やかかりつけの患者によっては、短時間で終わらせてしまうこともあります。これは、初診の場合はその患者のことを一から知る必要があるのと同時に、患者に、どんな医師であるのかを知ってもらいたいからでもあります。

逆に、「安定しているので、いつもの薬を継続したい」患者で、これまでの関係性の中で時間をかけたくないとご自身で考えていることが分かっている場合には、余計な話はせず、迅速に必要な診察をします。

陥りがちな良くない8つの特徴

多くの医師の診療スタイルを見てきて、陥りがちな良くない診療を挙げてみます。

(1) 挨拶がない(荷物のことも触れていない)

(2) 言葉遣いがタメ口(ですます調ではない)

(3) 患者と顔を合わせていない(カルテ入力に一生懸命で、目線を合わせない)

(4) 導入なしに、いきなり本題に入る(初診の場合)

(5) 閉鎖型質問(「はい」か「いいえ」という返答だけを求める質問)ばかりで開放型質問をせず、患者の話を聞こうとしない

(6) 患者に診断名を告げない(診断がはっきりしない場合は仕方ないが、診断名がわからないと、自宅に帰ってネットなどで調べることができず、家族などにも状態を説明できない)

(7) 分かりにくい医学用語を使用する(「感冒薬」→「風邪薬」などと言い換えるべき)

(8) 問診→診察→診断名→説明の一連の流れがなく、問診→診察→問診→説明→問診→診断など、いつまでも結論が出ず話が行ったり来たりする(患者が不安になりがち)

 

急いで診断することばかりを考えていると、このような診療になりがちです。もしかすると質問の仕方によっては閉鎖型質問だけでも正しい診断を付けることができるのかもしれませんが、これでは患者さまは納得されません。

きっとこのような診療を受けた患者さまは、「何も診てくれなかった」「まったく話を聞いてくれなかった」「この先生は、早く診察を終わらせたいんだな」と思い、二度とそのクリニックには行かないのではないでしょうか。

問診だけはなく、視診や触診などの診察も行い、患者の五感を刺激することも、安心感に繋がります。信頼のかけはしを繋ぐことが大切です。

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