クリニック経営の教科書 7.医療事務・看護師採用までの
7ステップ

経営者としての役割の中でも特に大事なのが、事務や看護師の「採用」です。クリニックの良しあしを評価する際、スタッフの質は大きなウエイトを占めるものだからです。入職する多くの人は、採用の逆ピラミッドの流れに沿ってクリニックへ入職して定着します。

(1) 認知
(2) 仕事探し
(3) 比較検討
(4) 応募
(5) 面接
(6) 勤務
(7) 定着

(1) 認知

ホームページやクリニック内の掲示板などで、スタッフを募集していることを認知する段階

(2) 認知仕事探し

ネット媒体(とらばーゆなど)、紙媒体(タウンワークなど)で仕事を探している段階

(3) 比較検討

ネット媒体やホームページなどから、仕事内容、アクセス、勤務時間、内装、院長やスタッフ同士の人間関係や雰囲気などで、他院と比較検討する段階

(4) 応募

求人媒体の応募フォームや履歴書を送付して応募する段階

(5) 面接

書類選考に合格したら、実際に面接を受ける段階

(6) 勤務

面接に合格して、入職を決意したら、勤務開始する段階

(7) 定着

長く続けていけそうなクリニックであれば、定着する段階

採用する側が「どのような人材を求めているのか」を、ホームページや求人媒体上で明確に掲載して、求職者に理解してもらうことが大事です。求職者は、それらの情報をもとに自分がクリニックに合うかどうかの判断をします。

採用で大切なのは、合う人を採用すること以上に「合わないように感じる方には応募しないでもらうこと」です。今の時代、求職者のほとんどが応募前にクリニックのホームページを確認するので、そこに、院長自身がどのような考え方をしているのか、どんなクリニックを目指しているのかを求職者に分かるように公開しておくことが必要です。

具体的な採用の流れ

具体的な採用の流れ

採用の流れを、順を追って解説しましょう。

(1) 認知
スタッフを募集していることを知る

まずは、積極的に仕事を探していない人にも、クリニックが求人していることを知ってもらっておくと、仕事探しを始めたときに、選択肢となりやすいと言えます。クリニックのホームページに「スタッフ募集」と記載したり、クリニック内の掲示板に、「スタッフ募集」の貼り紙を掲げたりします。

(2) 仕事探し
ネット媒体、紙媒体

実際に仕事探しをしている求職者が用いる情報掲載ツールに情報を掲載します。具体的には、ネット媒体であれば「とらばーゆ」や、紙媒体であれば「タウンワーク」などです。最近では、スマホで簡単に応募できることから、ネット媒体のほうがより多くの応募が集まりやすい傾向にあります。

(3) 比較検討
「仕事探し」で見つけたいくつかのクリニックから応募するクリニックを選ぶ

求職者は、「①認知」や「②仕事探し」で、いくつかの求人情報を見つけ、その中からどこのクリニックへ行くかを決めるために比較検討します。その際、比較の条件に挙がるのは、次の項目です。

・ 仕事内容
・ 給与条件
・ 雇用条件(正社員かパートか)
・ クリニックの雰囲気や人間関係
・ 院長やスタッフの人柄
・ アクセス
・ 勤務時間
・ 内装

など

ほかより条件が良く、魅力的なクリニックにすることで求職者に選ばれやすくなるため、経営者は事前に周辺のクリニックが掲載している条件を確認しておく必要があります。条件面では、業務開始時の給与条件を他のクリニックよりも高めに設定することで応募に繋がりやすくなります。

給与条件とともに重要なのが、雰囲気や人間関係に関する情報、院長の人柄です。ただし、人間関係の良さはどのクリニックも記載していることであり、求人情報の中でクリニック内の雰囲気の良さを語っても、訴求効果は限られています。

その一方で他のクリニックと差別化できるのは、「院長の人柄」に関する情報です。クリニックの院長の方針を伝えることによって、院長の考えはもちろん、そのクリニックの方針や「どんな人材が求められているのか」といった求職者にとって知りたい情報を伝えることができます。

また、仕事内容に関しては、「面談に行ってみたら思っていたのと仕事内容が違った」ということにならないよう、分かりやすく記載しましょう。その際、メリットだけでなくデメリットも包み隠さずに記載することが大切です。

現代は、職探しにもインターネットを用いることが一般的になりました。ですからほとんどの求職者は応募前にクリニックのホームページを訪れていると考えていいでしょう。ホームページであれば文字数の限りがなく情報発信できるのですから、「クリニックが求めている人材」など、求職者に伝えたい情報はホームページの求人ページに明記しておきます。

(4) 応募

求職者が応募して、面接を行い、実際に入職して定着するまでの間に、求職者の人数が絞り込まれます。仕事探しの中で自分のクリニックを見つけてもらえた人の一部が、他院と比較検討し、さらにその中の一部の人が実際に応募します。そうして、応募した求職者のうち、実際にクリニックで面接する人は、より絞られます。

たとえば、8名の応募があったとすると、そのうち半分の4名前後が応募後に面接をキャンセルする場合があります。他の職場が決まったと面接のキャンセルを連絡してくる人、土壇場でキャンセルする人もいれば、連絡もなしに音信不通になってしまう人もいます。ネット経由で応募してきて面接の連絡をしても、実際に面接に来るのは半数程度と認識しておきましょう。

実際に面接した4名に、合格通知を出しても、2名前後の方は、入職を辞退します。「実際に面接してみて、思っていたクリニックと違った」「他院に入職することが決まった」など理由はさまざまです。そして入職した人も、何年も継続して勤めてくれるのは、1名あるかないかですので、いかにクリニックに合った求職者を多く集めることができるかが重要なポイントになります。

ネット社会の発達により、スマホで仕事を探し、簡単に応募できるようになりました。面接では、クリニック側の面接官が、求職者を面談しているのと同時に、クリニック側も求職者からチェックされているのです。

(5) 面接
マニュアルを用意する、クリニックのありのままを話す、履歴書の見方

面談の際は、質問項目を事前に用意しておき、そのマニュアルに沿って聞いていくと良いでしょう。質問項目をその都度考えるのは大変である上に、質問項目によって求職者の見え方にばらつきが出る可能性がありますし、こちらの気分で相手の印象が変わってしまうことを避けるためでもあります。

〈 お勧めの質問項目リストの内容 〉

(1) 志望動機
応募したのが自院でなくてはいけない理由が含まれていると、説得力があります。

(2) 休みの日には何をしていますか?
その方のライフスタイルを聞くことで、どんなことを重視しているのかが分かります。

(3) どんな性格だと友人から言われますか?
自分はどんな性格だと思うか、という質問よりも、嘘をつきづらいです。

(4) 以前の勤務先の退職理由
正直に話していれば、退職理由を聞くことにより、どういったことが本人のストレスになるのかが想定できます。

また、面談時に労働条件に対する質問が多い人は、権利意識が強い傾向にあるかもしれません。面談では、クリニックの良いところだけを話すのではなく、良いところも悪いところも含めた「ありのまま」を伝えることが大切です。なぜなら、採用した方に長く働いてもらうためには、クリニックに対する勤務開始前の期待値が高すぎないほうが良いからです。実際以上に良い職場環境をイメージして働きだした方は、労働環境の中に不満を見つけやすく、職離れの原因にもなります。

たとえば、仕事開始から3カ月で退職する人は、教育コストがかかっただけで、経営上のメリットはありません。ですから、もしも面談を受けたものの、「合わないな」と思った求職者の方がいた場合には、働き始める前に、辞退していただいたほうがお互いに良いのです。

そのためには、面談に来た方に「乗った船から、救命ボートで安全に降りられる仕組み」を作り、提供することが必要です。具体的には「(面談後に)もし、思った職場と違ったなと思ったなら、辞退してもらっても構わないです」と声をかけることもあります。

採用というと、つい「良い人を見つけること」ばかりに目がいってしまいますが、実は「合わない人を採らないこと」はもっと大事です。なぜなら、一度採用した人を船から海に投げ出す(こちらの都合で解雇する)ことはできないからです。

また、面談で「何を見るか」ですが、基本的に面談で相手のことは分からない、と思っておいたほうが良いと思います。面談を受ける人は、悪いことは隠し、良いことしか言わないこともあります。そういう意味で、面談では「良い人」よりも、「クリニックに合う人」を採るほうが良いと思います。>好感度の高い人は、こちらもその方を本来の能力以上に高く評価をしている可能性が高く、面接には強いですが、実は長続きしないタイプという場合もあります。

採用の前に、「1日体験」を行うのも良い方法でしょう。面談の際に1日体験の話をすると、その時点でモチベーションが低い人が辞退するというメリットもありますし、こちらは正式に採用する前にその職務の適性や能力があるかどうかを見極めることができ、働く側としても、ミスマッチを防ぎやすい仕組みと言えます。

(6) 勤務

 

採用決定者と雇用契約を結びます。契約締結時には、雇用契約書のほか、「誓約書」を作成します。スタッフが突発的に辞めると、同僚や患者さまに大きな迷惑がかかるので、契約時に「退職時は2カ月前までに退職の旨を書面で伝える」などの書面を取り交わしておくべきです。

また、身元保証人の署名と捺印をいただくことも必要です。残念ながら、中には体調不良などを理由に欠勤し、そのまま来なくなって辞める人もいるので、そのまま居なくなってしまうことを防ぐためにも、身元保証人を知らせてもらいましょう。

(7) 定着

スタッフが業務に慣れ、定着して働けるようになるには、相応の教育時間がかかります。スタッフの定着は一朝一夕でできるものではありませんが、スタッフの採用抜きにクリニック経営の安定はありません。クリニックには診療開始時間と、診療終了時間があります。診療開始前には、掃除をして、電子カルテを起動しておかなくてはいけません。

また、診療終了時間後には、最後の患者の会計が終わった後に、レジの金額が合っているかを確認しなければなりません。そのためどうしても残業が発生し、それが事務の満足度の低下や早期離職に繋がる場合もあります。

事務スタッフの人数が2人以上いる場合は、シフト制にすると良いです。たとえば、10時〜18時が診療時間であれば、9時50分〜17時50分までの早番、10時10分〜18時10分までの遅番と分けて、交互に勤務するなど工夫すると事務同士も働きやすいでしょう。3人以上になったら、10時~18時までの中番も 追加すると良いでしょう。

8.開業するまでに知っておくべきこと
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