開業医のための労務トラブル対策 05.理念経営の失敗と分析

労務トラブルに悩んでいたときに、クリニックに理念経営の導入を試みたこともありました。理念経営の本を読むだけでなく、セミナーや合宿にも参加して、今まで数百万円を投資してきました。

頭の中ではどういう方法で理念を掲げて、経営していくのかはわかってるつもりですが、結果的には自分のクリニックには浸透させることはできませんでした。なぜうまくいかなったかのか振り返ってみると、大きく分けると、「理念を掲げても人が集まらなかった」「うまく指導できなかった」「どうにか回せてしまった」の3つの要因がありました。

理念経営の失敗=経営者として失格というイメージで思われるのが嫌なので、隠しておきたかったのですが、色々な角度からの意見もあってもいいと思いますので、あえて実際を書いておきます。

結局は、自分の運営するクリニックには導入できなかったものの、自己啓発好きの自分としては、自分の人生と向き合うことができて、時間とお金を投資してよかったと感じてはいます。

理念を掲げても人が集まらなかった

失敗の理由はなんですか?

最も大きな要因ですが、理念を掲げても人が集まりませんでした。理由としては、理念の内容が悪かったというよりは、クリニック給料が標準的で、相場よりも高くなかったからでしょう。

クリニックの給与は、相場よりそこまで高くはないにしても、応募もそこそこはありますが、理念経営を掲げて、沢山の中から面接で選ぶほど、人は集まりませんでした。

うまく指導できなかった

指導力不足だったのか、本心で理念を信じきることができていなかったのか、うまく指導することができず、既存のスタッフを休みの日まで研修に行かせることができませんでした。休みの日は私も休みたいですし、クリニックの理念浸透以外のことにも興味がありました。

元々、私の中に「売り上げを追うのはスタッフ個人ではなく私の仕事であり、スタッフには大きな自己成長を求めることなく、無理しすぎないでやるべきことをやっていればいい」という考えがあり、変わる必要がないと心の奥底では思っていたのかもしれません。

今までの採用でどうにか
回せてしまった

元々、人事のトラブルは多かったのですが、どうにか薄皮一枚で回せてしまっていました。スタッフが辞めてしまったら、理念に共感した人をじっくり選ぶよりも、すぐに人を雇う方が効率的だとも思ってしまうこともありました。

長年のトラブルの経験から、人にそこまで期待していないので、辞めてしまうことに抵抗感が低いのかもしれません。

なぜ、理念経営が注目される
ようになったのか?

「最近なぜ、理念経営が注目されるようになったのか」私は労働法とインターネットの発達が原因にあると考えています。

「なんでもかんでもインターネットのせいにするな」という声も聞こえてきますが、私なりになぜ、理念経営が注目されるようになったのか分析してみました。

労働法対策としての理念経営

労働法において、正社員を解雇することは、ほぼ不可能です。そのため、理念を掲げ、1つの方向性に導くことにより、目的を達成するわけですが、理念に合わない人、やる気のない人、能力のない人は途中で自分から辞めてくれます。中学や高校でのスポーツをやっている人が「市区町村の大会で優勝を目指すのか」それとも「全国の大会で優勝を目指すのか」によって、方向性は大きく異なります。

全国の大会で優勝を目指しているチームに、やる気がなく能力のない人が入ってしまったら、厳しい練習についていくことができず、すぐに自分から辞めてしまうでしょう。

理念経営は、合わない人が自然に辞めてくれるシステムともいえます。会社側が解雇を迫る必要がありません。結果的には、他のスタッフが理念の合わない人を辞めさせてくれます。人は社会性があるため、その組織の中で理念が合わないと組織から浮いてしまい、居心地が悪くなり、その組織を自分から離れることになります。事業者自らが手をくださなくていいのです。

スマホの普及が価値観を多様にした

インターネットが普及する前は、テレビの時代でした。テレビは、一方向に情報が伝達されるため、画一的な価値観になりがちで、テレビCM→消費→お金を稼ぐという、お金市場主義ともいえる価値観が支配していました。

多少の仕事が大変だったり合わなかったりしても、お金のために疑問に思うことなく、同じ方向を向いていました。インターネット、特にスマホが普及してからは、双方向に情報が伝達されるため、多様性のある価値観となり、相対的にお金の価値観が低下しています。様々な価値観となり、お金だけでなく、お金と自分の価値観にあった会社や組織で働くようになりました。

また、スマホやパソコンから、転職情報なども気軽に手に入るようになり、応募するのも簡単になりました。理念経営というのは、ある理念を掲げ、その方向性に合った人同士で仕事をしていくわけです。多様化した価値観の中で、「この指止まれ」と価値観の近い仲間を結びつけてくれます。理念を掲げることにより、自分の理念に合った組織を選ぶことができるようになったわけです。

給料が高くて理念が合わないところよりも、そこより多少給料が安くても理念が合って居心地が良いところを選んでいるということでしょう。

あなたのクリニックは、
コンビニ型かデパート型か

ビジネスモデルによっても、理念経営するべきかどうか判断が分かれるとも分析しています。たとえば、コンビニはあまり教育をせずマニュアル通りの接遇をおこない、デパートはしっかり教育をしてマニュアル以上の接遇をおこないます。ビジネスモデルの観点から分析してみると、コンビニは時給1000円で教育せず、時給換算で2000円の売り上げ、1000円の利益になります。

一方、デパートは時給1500円で、500円分の教育をして、時給換算で2500円の売り上げ、1000円の利益になります。お客が接遇に満足するとリピートしてくれるでしょう。どちらも優れたビジネスモデルですが、ビジネスモデルが違います。

実は、私はファミリーマートで働いたことがあるのでわかるのですが、コンビニの店員はおそらく誰でもできるのですが、専門的な接遇が必要なデパートの店員は誰でもできないでしょう。

医療に当てはめてみると、内科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科などは、保険診療であり、医療事務や看護師などのスタッフが接する時間は短く、教育しても、一定額の決まっており、能力の差があまりつかない分野のビジネスモデルであり、コンビニ型といえます。

美容外科、心療内科などのカウンセリングは、自由診療であり、看護師やカウンセラーを教育することにより、人の能力が大きく増幅される分野のビジネスモデルであり、デパート型といえます。

ちなみに、病床を持つ病院の勤務医も実はデパート型で、教育することにより、高付加価値を与えることができます。ほとんどの勤務医がおこなっていませんが、学会や地域医療連携の懇親会などで、本当は開業医とコミュニケーションを取ると、より多くの患者さまを紹介してもらえます。どちらがいいというよりも、ビジネスモデルにより、理念経営を導入した方がいいかどうかはあるのかもしれません。

理念経営をすると院長が
気持ちがよい?

当たり前のことですが、院長自ら理念を掲げて集まってきたやる気のあるスタッフと働く方が気持ちがよいです。やる気のないスタッフと働くと気持ちがよくないので、同じくらいの費用(給与や教育代)を払うなら、理念に共感したスタッフがいいでしょう。

もし、理念経営を導入しても、費用が高く売り上げに結びつかないのなら、理念経営が院長先生の趣味という考え方もあります。お金は幸せに換えられないのであれば、採算度外視で理念経営を導入して、気持ちよく働くというのも選択肢の一つです。

研修に参加したら給与を
支払わなくてはいけないケースも

理念経営で気をつけなくてはいけないのは、会社が強制して研修に参加させた際は、研修費用だけでなく、その時間分の給料を支払わなくてはいけないケースもあります。

〈 研修・セミナーが労働時間になるとき、ならないとき 〉

理念経営のリーダーとして、仕事中だけでなく、仕事後や休みの日にも、話し合いをしたり、スタッフの教育する必要があります。

また、研修会社に丸投げしても、全員が全員生まれ変わって帰ってくるわけではありません。自分で払っている私と違い、せっかく会社のお金で研修を受けているのに、文句ばかり言っている社員もいました。

理念経営がうまくいっている
開業医は人格者が多い

理念経営を導入している開業医は人格者が多く、一緒にご飯を食べていても楽しいです。

よく感じるのは、理念経営を導入して人格者になってうまくいっているのか、人格者だったから理念経営を導入してうまくいっているのかはわかりませんが、元々良い人格の持ち主が理念経営を導入してよりうまくいっていることが多い気がします。人により向き不向きがあるように思います。

本人の持っている人格により、導入して成果が出るクリニックもあれば、成果があまり出ないクリニックもあるようです。もちろん、環境が人を作るという要素もあるでしょうが、持って生まれた遺伝子により決まっている要素が大きいのかもしれません。

とはいっても、向いていない人が理念経営を勉強しても全く意味がないというわけではなく、例えば、向いていない人が理念経営を勉強すると、理念経営力が1→3になるとすると、向いている人が理念経営を勉強すると、理念経営力が10→30になるようなイメージです。

理念経営を導入できなかったが、
自分と向き合えた

振り返ると、理念経営を導入することができませんでしたが、良い人生経験であったと思いますし、自分と向き合う機会を作ることができました。

このホームページを作っているのも、自分のやりたいことと向き合えたからともいえます。なにより、ついイラッとしても、以前よりも一呼吸おいて冷静にスタッフと接することができるようになりました。

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